シニア層への商売上手を科学する その2

シニア層への商売上手を科学するの第二弾として、今回は減塩をテーマに分析してみたい。スーパーマーケットではさまざまな減塩志向の商品が扱われ、また消費者のニーズも高まっている。その中で、どのような売り手と買い手のすれ違いが起こっているのだろうか。

"シニア層への商売上手を科学する その2" table of contents

  1. シニア層への商売上手を科学する その2
  2.  塩分カットの味噌(パック)の塩分は本当に低いのか?
  3.  塩分カットの味噌(パック)の塩分は本当に低いのか?2

シニア向け売り場づくりを分析 正しいシニア対応とは

シニアのキーはS?

シニアのキーとなる言葉のほとんどが、Sで始まる英語に関係があるということにお気付きだろうか。

シニアにおいてキーとなる言葉をいくつか挙げてみると、塩分(Salt)、糖分(Sugar)、小容量(Small Quantity)、独居(Single)、小分け(Subdivision)等々、Sで始まる英語に関係するものが意外に多いことがわかる。機会があればその全てを紹介したいが、今回は塩分(Salt)についてスポットを当ててみたい。

2013年4月、神奈川県川崎市にオープンしたある商業施設に入店した食品スーパーの売り場を視察していた時の話である。梅干のコーナーでしきりにつぶやいているひとりの高齢の男性がいた。その男性はしばらくして、通り掛かった従業員を呼び止めて何かを尋ねていたが、その従業員は更に他の従業員を呼びに入った。その間およそ15分。どうやら手にしていた梅干の塩分量を訊ねていたようだった。普通は容器に表示しているはずだが、それがよくわからなかったのだろうか。従業員からも明確な回答がなかったようで、困惑気味な表情で売り場を後にしていた。この食品スーパーは、アッパーグレード商品を中心に取り扱っているが、品名カードに訴求している情報量が多く、一般的なスーパーにおいて、ワインの品名カードに記載されているような情報が、さまざまな商品においても記載されているのだ。それなのに従業員を呼んで訊ねなければわからないことがあったのである。どんなに多くの訴求をしていても、顧客が知りたい情報でなければ、訴求がなきに等しいということである。この事例の場合、それは塩分の含有量だったわけだが、梅干の場合、品種(産地)や製法、着色の有無など他にも色々な訴求点があるはずだ。しかしもともと梅干は塩分の多い食品であり、高血圧を意識するシニアの年代になるほど、その含有量が気になるのは当然といってよいと思う。そうであれば、品名カードに優先して訴求すべきは、塩分の含有量の表示だということになりはしまいか。

キッコーマンの新型容器の減塩醤油200ml、何故販売休止になったのか?

昨年の11月、好調に売れていたキッコーマンの新型容器の醤油に、販売休止となるものが出た。それは、開封後も空気に触れずに鮮度を保持出来る新型容器に入った減塩タイプの醤油、200mlであった。同じもので、減塩ではないもの、減塩でも容量が大きいものは継続販売されていた。販売休止となった期間に、その商品のリピーターだった顧客が他のどの醤油を購入していたのかを調べてみたのが図表①である。

図表① いつも新鮮減塩丸大豆醤油200ml全リピーター
商品販売休止期間の醤油の月当たり単品別売数(タテ軸:売数)

小売りの店頭から姿を消したのが、ほぼ昨年11月頃であるため、その前の7ヶ月間(3月~9月)の実績と、販売休止の4ヶ月間(12月~翌3月、ちなみに販売再開は4月)のリピーターの実績を月当たりで比較したものである。これを見る限り、販売休止期間に最も売数が伸びたのは、同じキッコーマンの新型容器の減塩タイプの450mlであることがわかる(図表①の①)。小容量のものがないため、容量の大きい同じタイプの商品へスイッチしたことがその理由であると考えられる。次に大きく伸びているのは、同じタイプで容量も同じ200m1ではあるが、減塩ではない商品である(図表①の②)。こちらの場合は、塩分よりも小容量を優先して選択したためだと考えられる(減塩が最優先の選択枝ではなかった人たち?)。販売休止中に突出して伸びたのは、以上の2品目のみであり、いずれも同じキッコーマンブランドである。実は醤油の鮮度保持型の新型容器で先陣を切っていたのは、ヤマサ醤油である。そのヤマサの醤油は図表①の中の灰色で示された③④⑤⑦⑧であるが、そこに大きな変化が見られないことから、ブランドスイッチはほとんどなかったと言えそうだ。ちなみに⑧が伸びているのは、⑤の200ml容量のものが、150ml容量のものへ規格が変更になったため、もともと⑤を購買していた人が、⑧へスイッチしたものだと考えられる。ヤマサの鮮度保持型の新型容器は、同じ機能ではあるものの、キッコーマンがボトルタイプであるのに対して、ヤマサは、パウチタイプのものである。この容器の違いに、キッコーマンのリピーターはこだわりがあるのかも知れない(実際にヤマサの容器は使いにくいとの声を耳にする)。そのことは、図表①の⑥で示されたヒゲタ醤油の商品が、キッコーマンと同じボトルタイプの鮮度保持型の新型容器であり、ボリュームは小さいものの、販売休止期間中に伸びていることからも推測される。ただ、この小売りにとっての問題は、図表②が示しているように、販売休止前のリピーター2123名中、約3割に達する675名の醤油の購買が無くなり、月当たりの購買点数も3割以上減少していることである。

 

シニア層への商売上手を科学する その2 図表2
図表② いつも新鮮減塩丸大豆醤油200ml全リピーターの商品販売休止期間の醤油の月当たり購買点数及び購買人数

他社の店舗で取り扱いのある別のメーカーの醤油(例えば関東地区であればマルエツのPB商品や、イチビキの醤油などがキッコーマンと同じボトルタイプで200mlの醤油を製造している、しかもマルエツのPBには減塩タイプもある)へ流れた可能性が否めない。販売休止の期間中、醤油を全く使わないことは考えにくいからである。ただ手をこまねいていたわけではあるまいが、その分まるまる売上を失っているわけである。

顧客データを見れば、そんなことがわかるわけだが、そのデータを見て、取り扱いのなかった前述のようなNB商品を新規に導入するアクションにつなげていたとしたら、675名もの未購買者を出すことはなかったかも知れない。その可能性は捨てきれない。予想以上に売れて、容器の生産が間に合わなくなり、販売休止となったこの醤油には、革命的と言われる新型容器以外に、冒頭で紹介したシニアに関するSで始まるいくつかのキーワードがある。ひとつは、塩分(Salt)のSであり、もうひとつは、小容量(Small Quantity)のSである。更にキッコーマンということで老舗ブランド(Store of long standing)のSも新たに加えることが出来る(シニア層への商売上手を科学するにおいて、老舗ブランドのNBほどシニア支持が高くなることを紹介させていただいた)。このシニアの定石とも言えるキーワードだけでなく、卓上でそのまま使える利便性もシニアの心を捉えたのかも知れない。これが容器の生産リードタイム以上に売数が伸びた理由だと推測しているがいかがだろうか。

図表③は、新型容器の醤油の、200ml、減塩タイプのもの(販売休止)と、450ml、減塩ではないタイプのものの購買者の年代別構成比を比較したものである。

シニア層への商売上手を科学する その2 図表3-1
図表③-1 全購買者(総人数)とヘビーユーザー(デシル1)の年代別購買人数構成比
いつでも新鮮しぼりたて丸大豆生しょうゆ450ml
シニア層への商売上手を科学する その2 図表3-2
図表③-2 全購買者(総人数)とヘビーユーザー(デシル1)の年代別購買人数構成比
いつでも新鮮しぼりたて丸大豆生しょうゆ200ml

茶色で色分けされているのは55歳以上のシニア(※注①)である。これを見る限り、前者におけるシニアの構成比が、後者に比べて健著に高いことが明らかである。またどちらの醤油においても、下段のヘビーユーザー(デシル1)ほど、55歳以上のシニアの構成が高くなっていることがわかる。販売休止となった醤油が、いかにシニアの支持が高かったかを裏付けるデータではないだろうか。

※注①:シニア
シニアの年代定義にはいくつかあり、65歳以降をシニアと捉えることが一般的だが、ここでは55歳以上をシニアと位置付けている

"シニア層への商売上手を科学する その2" table of contents

  1. シニア層への商売上手を科学する その2
  2.  塩分カットの味噌(パック)の塩分は本当に低いのか?
  3.  塩分カットの味噌(パック)の塩分は本当に低いのか?2