価格ダウンに起因しない、ネットによる新たな爆発点が欠品を招く

小売ではある一定の水準以上に価格が下がると爆発的に売数が上がる現象がある。それに加えて、近年Webによる情報拡散レベル新たな爆発点が欠品を招くようになったのではないか。この現象について、レモンジーナを例に売れ数やリピート率のデータを交えて紹介する。

"価格ダウンに起因しない、ネットによる新たな爆発点が欠品を招く" table of contents

  1. 価格ダウンに起因しない、ネットによる新たな爆発点が欠品を招く
  2. リピーター、特にヘビーユーザーの割合が重要
  3. オランジーナのヘビーユーザーの8割が、その姉妹品を手にした
  4. 声を上げている人の購買実績は、ネットではわからない

需要の津波

生前何度もノーベル賞の候補に挙がった安部公房の小説、第四間氷期の冒頭部分に次のような表現がある。

「目には見えない海水の振動が、やがて大津波になろうとして、信じがたいほどの波長と時速七二〇キロの速度で、海中を陸地に向かって走り続けていたのである(注①)」。

この波長(波の山と山の間隔)の長い波が、陸の浅瀬に近づくにつれて、アコーデオンのように押しつぶされることで、波の山が急上昇し、大津波となるのである。波長の長い波は、海底での地震の振動により発生する。地震による波長の長大化が、津波の予兆なのである。津波発生のしくみ、その速度などを知悉していた、科学全般に造詣が深かった作家らしい表現である。そんな予兆を読み取る暇もないほど、いきなり津波が襲うような、短期間での購買者の集中に困惑しているのは、メーカーの需要予測ではないだろうか。発売後、間を置かずに販売休止に追い込まれる商品が、ここ最近散見されるようになってきたからだ。トスサラ、ハーゲンダッツの華もち、サントリーの南アルプスの天然水&ヨーグリーナ、同レモンジーナなど、発売直後に予定販売数量を軽く超えてしまう商品もある。もはや特異な事例として、見過ごすわけにはいかない現象になりつつあるようだ。その実態について、今回は顧客データを使って明らかにしてみたい。

 

注①:安部公房全集 第9巻 新潮社より転記

意図的に品薄感を煽ったのか?

サントリーは、2015年の3月末に、炭酸飲料レモンジーナを、4月に天然水ヨーグリーナを新発売したが、いずれの商品も発売後すぐに販売休止となった。両商品共に、あまりに早いタイミングでの販売休止発表だっただけに、故意に品薄感を演出して、購買意欲を煽ろうとする意図があったのではないかとする見方があった。本当だろうか。レモンジーナを事例に、購買の実態を、少し詳しく見てみよう。

図表①レモンジーナ売数(構成比)

図表①は、3社の日別の売数を、期間中の全体売数の構成比で表わしたものである。3社共に全店で品揃え完了した初日(縦棒の黒い部分)にいきなり売数がピークとなったことがわかる。発売初日からの想定外の売れ行きに、追加商品の納入が滞り、以降は3社ともに売数が下がっていく一方となっている。レモンジーナはオランジーナの姉妹品(注②)である。オランジーナは、2012年に発売され、安定して高い売数を維持している。

図表②オランジーナ、レモンジーナ購買者数比較
※ともにレモンジーナ発売後1ヶ月間の実績

図表の②は、某小売りチェーンにおける両商品の購買者数を比較したものである。レモンジーナ導入から、一ヶ月間の同じ期間の実績である。これを見ると、レモンジーナには、オランジーナの、2.5倍を超える購買者がいたことがわかる。結果、発売月3月の30日、31日のわずか2日間で、他の炭酸飲料含めて、すでに3月計の売上金額8位にランクされた。更にその翌月には、10ヶ月連続で1位を維持していたウィルキンソンの炭酸水を抜いて1位となった(図表③)。

図表③炭酸系飲料の売数トップ3の推移

図表④の売数上位の売数週別推移を見ても、レモンジーナの売れ行きの凄まじさがわかるのではないだろうか。

図表④売数ベスト10商品計との比較

これほどの売れ行きに、意図的に品薄感を煽る余地はないと見るべきだろう。そもそも、新商品、話題商品の鮮度は、時間の経過とともにどんどん失われていくものである。トライアル購買者の熱が冷めない間に、売れるだけ売っておく方が、企業にとってはプラスとなるはずだ。欠品による機会損失を、再供給後に埋め合わせが出来るという補償は、どこにもないからである。事実、図表①のグラフには、販売再開後、出荷数量の問題があるにしても、発売時と比べて売数はそれほど伸びていないことが示されている。また安定供給できない商品を、棚割に組み込んだ小売りに対しても、その供給責任が問われることにもなる。したがって、意図的な欠品ではとの穿ち過ぎた見方が出るほど、予測を遥に超えてしまったと見る方が自然である。ちなみに、レモンジーナと近い時期に新発売されたコカコーラライフやキリンのメッツなどの、品揃え後15日間の売数と比較してみても、レモンジーナの品揃え直後の売数の集中度が非常に高いことが窺える(図表⑤、品揃え店舗1店舗当たりの日別売数実績)。

図表⑤他の新発売商品との比較

注②姉妹品:ここでは姉妹品と記載したが、サントリーでは派生商品と呼ばれている

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  1. 価格ダウンに起因しない、ネットによる新たな爆発点が欠品を招く
  2. リピーター、特にヘビーユーザーの割合が重要
  3. オランジーナのヘビーユーザーの8割が、その姉妹品を手にした
  4. 声を上げている人の購買実績は、ネットではわからない