小売り、メーカーにとってウィンウィンとなるブランドスイッチを探る

ビールには、定番ブランド、季節限定ブランドの大きな2つの柱があるが、特に前者の新発売商品の定番化は極めて困難とされる中で、ザ・モルツが、発売以来好調な売れ行きを維持している。この商品は、メーカーのみならず、小売りにとってもプラスとなる、双方ウィンウィンとなった事例なのである。今回はそんな事例を4つ紹介してみたい。

"小売り、メーカーにとってウィンウィンとなるブランドスイッチを探る" table of contents

  1. 小売り、メーカーにとってウィンウィンとなるブランドスイッチを探る
  2. 袋ラーメンに興味を示さなかった人を取り込んだサッポロ一番グリーンプレミアム0ラーメン
  3. ハーゲンダッツに全く関心がなかったアイスのヘビーユーザーも手を出した華もち
  4. メーカーが着目すべきお客は、小売が持つデータから絞り込み、グルーピングできる

清酒は、搾った酒の品質を安定させるために、2回の火入れと呼ばれる工程を経たのち市場に出荷される。もろみを搾った後、瓶詰めする前に1回、出荷直前に1回の2回であるが、前者のみ火入れする清酒は生酒と呼ばれ、後者のみ火入れする清酒は、生貯蔵酒と呼ばれる。いずれの清酒も火入れはしているわけで、厳密には生ではない。業界では、全く火入れしない酒を、生生と呼ぶことがあるが、2回の火入れを共にしない清酒であることを表現した言い方である。ビールにも生があるが、こちらも同様に、厳密には生とは言えない。加熱処理をしないビールであることから生と呼ばれているわけだが、フィルターで濾過処理をして、酵母等を殺菌しているわけで、やはり生がイメージするものとは異なっている。そんなことを考えると、例えばサントリーのビール、モルツは本当に麦芽なのかなどと、疑心暗鬼に陥りそうになるが、こちらの場合は商品名が示す通り、麦芽100%のビールなので、心配はご無用。このモルツ、旗艦ブランドだったが、スーパーの酒売り場に並んでいる商品はもっぱらプレミアムが付くモルツであった。プレミアムではないモルツを、ザ・モルツとして刷新して売り出したのは、2015年の9月であったが、このザ・モルツは、ブランド戦略における久々の成功事例と言われている。ビールには、定番ブランド、季節限定ブランドの大きな2つの柱があるが、特に前者の新発売商品の定番化は極めて困難とされる中で、ザ・モルツが、発売以来好調な売れ行きを維持しているからだ。この商品は、メーカーのみならず、小売りにとってもプラスとなる、双方ウィンウィンとなった事例なのである。今回はそんな事例を4つ紹介してみたい。

新たな顧客創造とブランドスイッチを成功させたザ・モルツ

最初の事例、ザ・モルツは、従来定番で品揃えされていたプレミアムモルツの売上を落とすことなく、新たな売上を付加したところが第一の特徴である。図表①を見ていただきたい。ビール大手の代表的な定番ブランド商品毎の売数の月別推移である。サントリーのモルツブランドは、ザ・モルツを発売した9月に、他に比べても突出した売上を作っていることがわかる(図表①のE)。その横の図表①のFは、Eから、新発売のザ・モルツの売数だけ除いたものであるが、これだけを見ても、その売数は前年よりも増加していることがわかる。他社の旗艦ブランドビールと比較しても、9月以降安定した伸びを見せているのだ。更に図表①のG(全ビール)を、その横のH(新発売ザ・モルツ除く全ビール)と比較すれば、ザ・モルツの貢献により、ビール全体での前年比(折れ線部分)が伸びていることがわかる。

図表①:ビールブランド別月別売数(棒)、及び売数前年比(折れ線)

ではこのモルツの購買者は、それが発売前される以前には、どんなビールを購買していたのか。それを示したものが図表②である。キリンの一番搾りとアサヒのスーパードライで2分していることがわかる。以下は、サッポロの黒ラベル、エビスなど、バラツキが見られるが、プレミアムモルツはベスト10には入っていない。一方、同購買者の10、11月の実績では、ザ・モルツのみが7.5%と、他のビールとの差を大きく開けている。

図表②:ザ・モルツ購買者の購買ビールベスト10 ※数値は対全ビール売数構成比(%)

更にそれを年代別に示した図表③では、全年代ザ・モルツが最も高い割合となっている。それは発売以前の半期の実績と比較しても際立っている。

図表③:ザ・モルツ購買者の年代別、購買ビールベスト10※数値は対全ビール売数構成比(%)

加えて図表④には、直近3ヶ月にビールの購買の全くなかった新たなユーザーを掘り起こしていることも示されている。この結果を踏まえると、ザ・モルツの事例は、メーカーであるサントリーにとっても、小売りにとっても、共にウィンウィンと呼べる典型的な事例と言えるものである。他社のユーザーを取り込みながらも、新たなユーザーを掘り起こして、店全体のビールの実績の引き上げに貢献しているからである。

 

図表④:直近3ヶ月間のビール、ビール系飲料未購買者の割合(%)

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  2. 袋ラーメンに興味を示さなかった人を取り込んだサッポロ一番グリーンプレミアム0ラーメン
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