NRF 2024-Retail Big Showについて【現地からの特別リポート】

2024年1月14〜16日に、アメリカ・ニューヨークで開催された、世界最大の流通小売向けイベント「National Retail Federation(NRF)2024-Retail’s Big Show」。今年は約170のセッションに450人以上が登壇、1000社以上が出展しました。世界各国から訪れた参加者は、約4万人にも及びました。

NRF2024に参加し取締役経営推進部部長の小野寺に、今年注目を集めた話題を語ってもらいました。

NRF2024のテーマは“価値重視”

―今年のNRFのテーマは何でしょう。

毎年のテーマは、そのときのトレンドを表しています。

直近3年だと22年は、コロナ禍による生活の制限で、デジタルを介した行動が加速したことに対する「デジタル化の加速(Accelerate)」。23年は、原材料高騰やインフレを受け、効率化と高付加価値の両輪が肝だとする「困難な状況を打破する(Break through)」でした。

そして今年は「価値を重要視する(Make it matter)」。コストの最適化や顧客体験の向上を超えて、企業・ブランドとしての価値を重要視する流れがきていることが、テーマに上げられました。

―価値重視がテーマということですね。背景には、昨年に引き続き原材料高騰やインフレがありそうです。

先に、アメリカの概況をご説明します。

日本とアメリカを比較してみると、これまで食品EC化率は大きく変わりませんでしたが、コロナ禍を経て大きな差が生まれています。

 

 

アメリカではオンラインが当たり前を前提に、組織体制の変化が見られたかたちです。

また、アメリカでは22年6月のインフレ率(前年同月比)+9.1%を境に、インフレ基調が落ち着いています。しかし、依然として+3%程度の水準をキープしている状況です。これがどんなイメージかというと、コカ・コーラ350ml缶が18年1月は1ドルだったのに対し、23年11月は1.24ドルまで値上がりしているといった具合です。

アメリア人の65%が、商品価格の上昇を懸念事項のトップ3に挙げており、44%の人が貯蓄を減らしているという調査結果があります。さらに75%の人が、経済悪化が自身の生活に影響を与えると思っているというのが、アメリカの現状です。

―価格高騰に対し、小売側が行っている対策はありますか。

一つが「Inflation busting prices(インフレ対策価格)」と名付けた値引き商品の販売です。こうしたマスの値引きに対し、有料会員向けの会員特別価格の設定なども盛んです。

さらに、PB商品のニーズも増えており、44%の人が、PB商品が家計を助ける価値があると解答。有名ブランドの代替品になると答えた人は、40%にも及んでいます。

 

影響力のあるブランドにするための九つの要素

―今回、どんな話が上がりましたか。

まず、「Walmart(ウォルマート)」US CEOのジョン・ファーナー氏は、小売業について「23年は持続的なインフレ、高金利、世界的な情勢不安、窃盗などで苦しい1年となった。しかし、小売は忍耐強かった。商品やサービスの新たな提供方法を探索し、顧客の予算を拡張することに取り組んでいる。先を見据えて動くことが大切である」と述べていました。

また、リサーチ企業である「WPP」CEOのデヴィット・ロス氏は、「影響力あるブランドになることがビジネスにおいて、極めて重要である。そういったブランドは、人々の行動や態度を変える力を持っている。“Like”ではなく、“Love”になってもらう必要がある」と、顧客に支持される影響力のあるブランドになることが重要だと、解説しています。

そこで、影響力のあるブランドになるための九つの要素が紹介されました。

 

 

九つは「Innovation(革新)」「Trust(信頼)」「Performance(価値)」「Status(社会的地位)」「Purpose(目的)」「Authenticity(信憑性)」「Convenience(利便性)」「Contemporary(現代的)」「Fun(楽しみ)」。全て充足させる必要はなく、どれか一つでもエッヂがきいていればいいと述べています。

例えば、ウォルマートなら利便性があることで、それ以外のブランドと比べ、成長安定性が2.8倍、ロイヤルティが3倍になるということです。

逆をいえば、小売業は利便性以外、突出した要素がないのが現状です。

―具体的に、顧客への影響力を高めた事例企業は。

「Levi’s(リーバイス)」CEOのミシェル・ガス氏。彼女は「P&G」や「スターバックスコーヒー」などを経て、23年1月にCEOに就任しました。30年以上の経験から、①ブランドの強さ、②消費者への執念、③イノベーション力、④オムニチャネル化、⑤目的と価値観の五つが大切であると説いています。

ガス氏は以前、スターバックスコーヒーで、テイストテストでなかなかいい結果が出なかった商品を思い切って発売したところ、今年で20周年を迎えることとなった経験から、③の消費者が気づいていないニーズを見つけることが重要だと話しています。また、EC立ち上げのために、13年に百貨店チェーンの「Kohl’s(コールズ)」に入社。当時10億ドルだったEC事業が、60億ドルまでに成長していることをうけ、④のオムニチャネル化の重要性を説いています。

ちなみにリーバイスは、音楽、スポーツ、文化に根ざしており、スタジアムの命名権も取得。リーバイス×◯◯といったカルチャーの醸成により、頭から爪先までリーバイスでカバーできる世界を目指しています。

 

インタビュイー
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、
株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。
前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
掲載情報
こちらの記事は、販売革新4月号に掲載されています。
※外部サイト(Fujisan.co.jp)に遷移します。本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「販売革新」にて弊社経営推進部の小野寺裕貴が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。 出典:販売革新2023年12月号
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