人材・組織への投資があってこそのDX「Target社」が進めるデジタル投資とは?【前編】

物価高の影響から生活者の倹約志向が高まり、世界全体のディスカウントストア業態が成長を遂げています。

市場規模は、2022年の実績で前年比9%成長の5,101億ドル(約75兆円)、2030年には8,347億ドル(約122兆円)まで達する見込みとの試算です。その市場を牽引するのはやはりアメリカ。

売上高のランキングは、1位Walmartから始まり、2位Costco、3位Targetと続きます。日本のディスカウントストア業態も成長のフィールドを世界に求め、
パンパシフィックHDは日本以外の地域で40店舗超を出店(店名:DON DON DONKI)、業務スーパーを展開する神戸物産もアジア等に出店し始めています。

日系ディスカウントストアの海外進出例

今回は、そういった注目市場のなかでも、独自の戦略で成長を続けるアメリカのTargetに焦点を当てて、成長のカギを考察していきます。

世界のディスカウントストア市場規模

コロナで大きく成長、更なる進化に向けて今が正念場

はじめに近年の業績を確認しておきます。コロナ禍でも高い成長を遂げ、2020年の売上高成長率は前年比+19%、2021年の同値は+13%となっています。

業界トップWalmartの成長率が、2020年で+8%、2021年で+6%であることを踏まえると、いかに高水準かが分かります。

2022年は売上高の増加は続くも、成長率はコロナ前の水準に戻り、且つ利益率が大きく低下。
更に、最近発表された2023年5~7月期(第2四半期)の売上高も前年同期比でマイナスと苦しい状況が続きます。

コロナ特需の収束や原材料費の高騰など、小売各社にとっての逆風が吹くなかで、他社に先んじて状況を打破できるか、強い企業としての真価が問われます。

Targetの売上・利益率推移

CEO・Brian Cornell氏が進めたデジタル投資

Targetの成長は現CEO・Brian Cornell氏の手腕によるところが大きいと言えます。2013年に同社の過失によるクレジットカード情報流出問題が発生。
翌年に入り、その責任を負う形で、当時のCEOが退任し、アメリカ大手飲料メーカー・ペプシコ社の幹部であったCornell氏が新CEOとして招聘されました。

100年以上の歴史のなかで、外部人材が同社CEOに就くのは企業史上初めてであり、大きな期待を集めました。

同社の信頼回復に努めつつ、デジタル力強化のために、イギリス大手小売Tesco社のCIOであったMike McNamara氏を同社のCIOとして招聘。
そして、2017年に新たな戦略を発表し、「デジタルファースト」を掲げました。

Cornell氏は向こう3年間で70億ドル(約1兆円)を投資することを約束。
デジタルの力を用いて、店舗、オンラインチャネル、物流を進化させると宣言しました。

引用:https://www.wsj.com/articles/target-ceo-brian-cornell-to-stay-three-more-years-11662548401

情報流出問題によって、会社全体がIT・デジタル強化の必要性を認識しているタイミングを捉え、成長の端緒にしたと言えます。

まずは組織改編に着手。もともとIT開発の大半が外注となっていましたが、
自社の開発力強化のために1,000人規模でエンジニアを採用、内製化比率を7~80%まで引き上げました。

また、従前から自社システム運用などを目的として設立していたインド法人を中心として、技術を持ったスタートアップ企業の支援プログラムを開始。
スタートアップ企業とともに、VRやアドテクなどの実証実験などを繰り返し、新たなサービス開発に資する技術の開発を進めました。

その甲斐もあり、同社はコロナ蔓延という不測の事態でも高い成長を遂げられたと言えるでしょう。
2021年3月の決算説明において、Cornell氏は「コロナが訪れた時点で、我々は準備が整っていた」と述べ、自らが行った投資への自信をのぞかせました。

具体例としては、オン・オフライン両面の強化があります。コロナ以前から、多くの小型店を出店し、アメリカ全国民の20~25キロ圏内に同社店舗がある状態となっていました。
そして、その状態にデジタルの力を掛け合わせました。顧客が家からオンライン注文を出来るようにアプリを構築、さらに店舗スタッフが注文された商品を簡単に確認し、準備するためのツールも提供しました。

その結果、実店舗、配送、BOPIS(Buy Online Pick In Store:店内受取)、カーブサイトピックアップ(駐車場受取)など顧客のニーズに応じたチャネルをもってコロナ禍を迎えることが出来、成長を繋げられました。

駐車場受取の案内表示

現地でオンライン注文と店頭受取を試しましたが、指定された時間になると待つことも無く、スムーズな受取が行えました。

一方で、翌年2022年1月に開催された“NRF Retail Big Show(以下、NRF)”において、
Cornell氏は「2021年末のホリデーシーズンに多くのお客さまが店舗を訪れたことから、リアル店舗で楽しく買い物をしたいニーズは未だに顕在だと確信した」と述べ、実店舗の重要性を強調。
Cornell氏は就任当初より、ファッション・化粧品・家庭用品などを含めた幅広い品揃えを同社の強みと捉えていました。顧客が買い物に“楽しみ”や“出会い”を求める今こそ、強みが発揮されるのではないでしょうか。

さらに、近年は外部企業と連携。Apple StoreやUlta Beauty(コスメ専門店)を店内にオープンさせたり、D2Cブランドの取り扱いを始めたりすることで、ワンストップで便利にそして楽しく買い物が出来るような環境を整備しています。

 

続編はこちらから

「人材」と「組織」に対する投資を絶やさないことが重要!「Target社」が進めるデジタル投資とは?【後編】

執筆者紹介
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、
株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。
前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
掲載情報
こちらの記事は、販売革新12月号に掲載されています。
※外部サイト(Fujisan.co.jp)に遷移します。本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「販売革新」にて弊社経営推進部の小野寺裕貴が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。 出典:販売革新2023年12月号
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