初開催!アジア最大級の流通小売業界向けイベント「NRF Retail’s Big Show APAC 2024」前編

本記事では2024年6月に開催されたNRF APAC 2024の様子をレポートします。

What’s NRF APAC?

全米小売業協会(National Retail Federation、略称NRF)が毎年1月にニューヨークで開催する世界最大の流通小売業向けイベント「NRF Retail’s Big Show」のAPAC版です。去年の同イベントにて、シンガポールでの開催が発表され、大きな注目を集めました。

2023年1月にニューヨークで発表されたときの様子

開催の地は、ランドマークとして名高いマリーナベイサンズ。セッション聴講と展示観覧を目的に、APAC地域を中心に世界各国から約7,000人が参加しました。日本からも400人ほどが訪れていたとのことです。更に、ニューヨークと異なり、日本企業の出展が多いのも特徴的でした。同じ業界で切磋琢磨する企業がグローバル市場への第一歩を踏み出す瞬間だと思うと非常に感慨深い気持ちになります。当社が出展した様子についても、改めてお伝えしますので是非ご一読ください。

NRF Retail’s Big Show APACの概要

どんなセッションがあったのか

本イベントでは約60のセッションが用意されていました。内容をもとに、筆者なりに3つ+αに分けてみました。タイプ1ではニューヨークでも登壇するような企業が、先進的な取り組みを語りました。一歩先を行く企業から学ぶことを企図したアサインではないかと推測します。タイプ2ではAPAC各国の雄が登壇。APACという括りはあるものの、各国の状況は異なります。セッションを通しながら、自国との共通項や違いを考察できます。ちなみに日本からもFAST RETAILING、AEON、PPIHの方々が登壇。タイプ3は業界トレンドに関するもの。コロナやインフレーションでAPAC内の生活者がどのように変化したのか、また流通小売各社の対応すべき課題が何なのかを学べます。米国や欧州と同様に“リテールメディア”、“ソーシャルコマース”などが話題にあがりました。そして、+αと記したのは本イベント開催に関わった協会などのセッション。初開催ということもあり、時間を割いていた印象です。

注目セッション①|Domino’s Pizza

Chief Digital OfficerのChristopher Thomas Moore氏が、昨今の変革を語りました。あまり知られていませんが、同社は過去10年ほどで大きな成長を遂げています。そして、その成長を支えるのがデジタル推進。市場からの評価も非常に高く、2010年の株価と比べると約50倍。世界を席巻するGoogleやAppleを上回る勢いです。

順風満帆なように聞こえますが、15年前には厳しい状況にありました。「段ボールの味がする」といった酷評が飛び交い、人気が急落。そこで徹底的に“顧客の声”を収集することに取り組みました。専用フォームを準備し、顧客に批判的なコメントの動画をアップロードしてもらいました。そして、その声をもとに、創業から50年間守り続けたレシピを刷新。以降、徐々に人気が回復するのですが、更に支持を得るために挑戦し続けます。そこで鍵となったのが“購買体験の向上”です。味に満足してもらっても、1度に買ってもらえる量には限りがあります。売上を伸ばすためには、顧客体験の満足度を高め、「また買いたい」と思ってもらうことが重要です。デリバリーを生業とする同社にとって、顧客体験の向上=デジタル化への注力、となったわけです。どんな取り組みを行ったのか、事例をいくつか見ていきましょう。

最初に仕掛けたのが“Domino’s Tracker”。注文からデリバリー完了までのステータスを可視化することで、「あと何分で届くか分からない」という心理的なストレスが軽減するとともに、デリバリーの時間に合わせた準備も行えます。今でこそデリバリーサービスで当たり前となっていますが、スマートフォンが普及し始めた2010年頃は画期的でした。また、“Anyware”いう新たな機能によって注文のシーンを改良。GoogleやALEXAと連携し、どこでもどんなデバイスでも注文できるようにしました。またSMSにも対応。ピザの絵文字を送信すると注文が開始します。(絵文字を探すより“ピザ”と打った方が早い気もしますがピザの絵文字がスマホ内に根付くことで想起されやすくなるのかも?)「ブラウザやアプリでログイン→注文」の流れが簡略化することで、注文のハードルが下がります。

これ以外にもデジタル化に関する取り組みが多数紹介されましたが、いずれも“顧客体験の向上”に立脚していました。目的を明確にして、デジタル化に投資し続けることで成長を遂げた好事例と言えるでしょう。

次回はオーストラリア売上2位の小売企業「Wesfarmers」の事例をご紹介します。

執筆者紹介
小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒、MBA 取得
株式会社みずほ銀行での法人営業、株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコム株式会社へ入社。
創業30年を迎える流通小売業向けシステム会社がより大きく、そして多面的に業界へ貢献できるよう、自社の企業・組織基盤強化に注力。
取締役として財務会計、人事、マーケティングなど経営全般を管掌。
また、米国・欧州等のビジネスイベントや店舗に出向きながら海外リテールトレンドを研究。
「宣伝会議」や「販促会議」への寄稿や「販売革新」での連載を担当するなど、業界への発信活動を続ける。
自社メディアでも月数本の記事を公開。