「Whole Foods Market」はCEO交代でどのような変化が生まれるのか?
2022年9月、創業者であり初代CEOのJohn Mackey氏が退任し、
Jason Buechel氏が新たなCEOに就任しました。
創業45年を迎えるWhole Foods Market(以下、Whole Foods)が新たなステージに向かい始めました。
今回はMackey氏が歩んだ軌跡を振り返りつつ、Buechel氏就任に伴う変化を考察することで、当社の確固たる強みとその源泉を学んでいきます。
カリスマ経営者・Mackey氏が歩んだ軌跡
Mackey氏は、「良質で安全な商品を届けて人々を幸せにすること」を志し、
Whole Foodsの前身となるSafer Way Natural Foodsを起業。その後は、買収を重ねて成長を遂げます。
あまり知られていませんが、当社の成長を加速させた背景には、Mackey氏が手掛けた多数の買収があります。
現在の社名の元となる“Whole Foods”の買収を皮切りに、1988年以降10余の企業を買収。
それらの企業が持つ店舗や人材などのアセットを梃子に、
ハワイを含む全米及びカナダ・英国に500店以上を出店、売上高約2.2兆円(2017年非上場化前の時点)の規模まで到達させました。
多数の買収によって規模を拡大させながらも、揺るがず良質な商品を提供し続けられたのはなぜでしょうか。
それは、企業理念である
「Whole Foods, Whole People, Whole Planet(事業を通して、食、人、環境を健康にする)」が
常に判断軸となっていたからだと思います。
被買収企業の全てが、“ナチュラル”な食を提供する企業であり、Mackey氏及び幹部が同じ志を感じた上で買収に至ったことが伺えます。
彼は、著書「Conscious Capitalism」(2013)でも企業理念と通ずることを説いています。
著書名にもなっている“Conscious Capitalism”は、
「社会に良い影響を与えながら、企業を成長させなければならない」という考え方で、
「Whole Foods, Whole People, Whole Planet」とまさに一致します。
退任時のメッセージでも、
「企業とステークホルダーそれぞれの繁栄を目指すような愛ある企業文化を根付かせることに邁進した」
と述べており、徹頭徹尾理念を重んじていたことが分かります。
1店舗からはじまり、2兆円規模に成長させ、
Fortune誌の「The World’s Greatest Leaders」にも選出されるなど
名実ともに米国小売業を代表する経営者となりました。
新CEO・Buechel氏とはどんな人物か
カリスマ経営者・Mackey氏からバトンを受け取った新CEO・Buechel氏は一体どんな人物なのか、
そしてどのようなことを仕掛けていくのか。
就任直後にBuechel氏が米国の小売業向けカンファレンス「Grocery Shop 2022」に登壇し、
自らのルーツと今後の方針を話していたので、その内容に基づき、考察していきましょう。
彼は酪農が盛んなウィスコンシン州の出身で、祖父が酪農家、父がチーズ職人の家庭で育っています。
彼自身も7歳から家庭菜園に触れ、新鮮な食材が身近にあったことから、
自然と食への意識が芽生えていったと振り返り、そのルーツがWhole Foodsへの参画に影響を与えたと強調しました。
大学卒業後はアクセンチュアなどを経て、2013年に当社へ入社。
CIO(最高情報責任者)、COO(最高執行責任者)などを歴任しました。
食を愛し、ITに対する知見も持つ彼が、どのような戦略をとっていくのでしょうか。
「Store-Centric」を通した共感の創出
CEO就任直前の6か月間、彼は米国全土を周り、店舗従業員、顧客、地域コミュニティ、
ベンダーなど当社に関わる各ステークホルダーとの会話を重ねたそうです。
そのなかで、Whole Foodsがさらに支持されるために必要なことに気づいたと述べました。
それは、自社のビジョンや戦略を打ち出すだけではなく、実現に向けて、
各ステークホルダーにどのような役割を果たしてもらいたいかを伝え、共感してもらうことだそうです。
そこで重要となるのが、「Store-Centric」の考え方だと言います。
共感を生む上で、人が集う店舗が最も重要な役割を果たすと強調しました。
実際に店舗を訪れると、「Store-Centric」の方針が強く感じられます。
まず、店舗入口付近には、
「We Sell the Highest Quality Natural and Organic Products Available(我々は最高品質の天然・有機製品をお届けします)」
をはじめとする8つのCore Valueが掲示されています。
売場に行くと、Core Valueに基づく様々な製品が並んでいます。
オーガニック製品の取り扱いが多いことは有名ですが、Whole Foodsでは500以上の禁止成分が定められており、
売場の至るところで
「No added hormones or antibiotics ever(ホルモン剤や抗生物質は一切添加されていません)」
のような文言が書かれたPOPや壁紙を目にします。
また、“Local”というラベルが付いた製品が多数陳列されています。
これは、店舗と同一州内の企業や農家が生産した製品であることを示しており、
地域社会と密に連携し、持続可能な生産を目指していることが感じ取れます。
Buechel氏によると、1店舗で取り扱う“Local”製品は3,000を超え、5年前と比べると30%以上増加。
地域社会との持続的発展に挑戦しながら、同時に製品の輸送距離を抑制することで環境保全にも貢献していると説明していました。
このように、店舗と製品を通して、自社の考えを顧客やステークホルダーに理解、および共感してもらうための工夫が施されています。
Whole Foodsの調査によると、ミレニアル世代(2023年時点で26歳から42歳)の60%が、
製品がどのように作られ、どういった成分を含んでいるかを気にする、
そして50%はその内容を踏まえて購買意思決定をしているとのことです。
米国の人々が製品の持つ社会的な影響に高い関心を持っていることが分かります。
既述の通り、Buechel氏は「Store-Centric」の考えに立ち、
生活者やステークホルダーから“共感”を得ることに注力しているわけですが、
今後の社会を鑑みると非常に的確な判断と言えます。
Amazonとの連携によるテクノロジーの活用
ご存知のように、2017年にWhole FoodsはAmazonの傘下になっています。
ITの経験が豊富なBuechel氏はそのことについても前向きに考えているようです。
Amazonが開発する「Just Walk Out(決済無しの店舗)」や「Dash Cart(スマートカート)」を上手く活用することで、
Whole Foodsの顧客にもより良い購買体験を提供できると確信している様子です。
すでに、2店舗にJust Walk Outを導入したそうです。
また、Dash Cartについても導入検討中だそうです。
いずれのテクノロジーについても、レジ待ちや決済作業による顧客のストレスを解消することに最も効果的だと言います。
一方で、これらの導入を進めていくなかで、顧客との対話を絶やしてはならないと強調します。
Whole Foodsでは、精肉コーナーやチーズコーナーなどのスタッフ育成に力を入れており、
そこでの対話はテクノロジーが代替し得ないと言います。
顧客の要望を聞いた上で、適切な形や量にカットして提供したり、食べ合わせのアドバイスをしたりするなど、
専門家ならではのサービスが強みであり、その強みは維持し続けるべきと考えているようです。
Buechel氏のもと、従来からの強みとテクノロジーを組み合わせながら、より良い購買体験を築いていくに違いないでしょう。
おわりに
ここまで、Mackey氏が歩んだ軌跡とBuechel氏による変化の兆しを見てきました。
Mackey氏がこだわり続けた“社会・ステークホルダーに対して良い影響を与える”という考えに対して、
Buechel氏も賛同し、継承していくことが伺えます。
さらに、Buechel氏は自身の気づきから「Store-Centric」の考えを入れ込み、
ステークホルダーに自社の考えを理解してもらい、共感が得られるように工夫しています。
加えて、Buechel氏が培ったITの経験を活かし、テクノロジーの力で購買体験の強化に努めていくようです。
以上から、Buechel氏が今後取り組むべきは、創業時からMackey氏が大切にしてきた企業理念を維持しながら、
自ら変化を察知し、強みを活かして改革を行っていくことだと思います。
日本企業も、AI、DXなどの言葉に踊らされることなく、
元来から企業が大切にしてきたことや企業理念を常に顧みながら必要な変革をしていくことで、強い企業・組織を作っていけるのではないでしょうか。
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、
株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。
前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
こちらの記事は、販売革新10月号に掲載されています。
※外部サイト(Fujisan.co.jp)に遷移します。
本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「販売革新」にて弊社経営推進部の小野寺裕貴が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。
出典:販売革新2023年10月号
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