「人材」と「組織」に対する投資を絶やさないことが重要!「Target社」が進めるデジタル投資とは?【後編】

物価高の影響から生活者の倹約志向が高まり、世界全体のディスカウントストア業態が成長を遂げています。

市場規模は、2022年の実績で前年比9%成長の5,101億ドル(約75兆円)、2030年には8,347億ドル(約122兆円)まで達する見込みとの試算です。その市場を牽引するのはやはりアメリカ。

今回は、世界全体の注目市場である、ディスカウントストア業態のなかでも、独自の戦略で成長を続けるアメリカのTargetに焦点を当てて、成長のカギを考察していきます。

この記事は後編です。前編を読んでいない方は下記をクリックください。

人材・組織への投資があってこそのDX「Target社」が進めるデジタル投資とは?【前編】

最も重要な要素はやはり「人材」、「組織」

デジタルによる成長を推進してきたCornell氏ですが、端々で「人材」、「組織」の重要性に言及する傾向があります。

2017年のインタビューのなかでも、「ビジネスの成否を分けるのは戦略でもイノベーションでも無い。最終的に実行するのはチームである。」と話しています。

そして、上記NRFの講演でも、「コロナ蔓延という有事で迅速な対応が出来たのは従業員のお陰である」と称賛。
会社の意向だけでなく、従業員の働く目的やキャリアプランに照らして、教育を提供することが大切であると主張しました。

今年1月に開催されたNRFでは、Cornell氏と女性幹部4名が一緒に登壇し、企業文化が組織や顧客に与える影響を熱く議論。

当イベント全体を通して、CEOが従業員と一緒に登壇する企業がほぼ皆無だったため、非常に印象的な講演でした。

そのことからも、いかにCornell氏が従業員を大切にしているかが伝わってきます。
講演内でCornell氏は、「企業文化を一日たりとも脇に置くことは無い」と述べ、
企業文化の醸成・浸透がビジネス成功の肝であることを強調しました。

さらに、女性幹部の一人は、「企業文化は、『私たちが誰なのか』、『私たちがどのように働くのか』ということそのものであり、意思決定する際の指針となっている」と説明。
“Care, Grow and Win Together(ともに気遣い、成長し、勝る)”というスローガンを中心に、
企業文化が40万人超の従業員にしっかりと浸透していることをアピールしました。

続けてCornell氏はニューヨークが大寒波に襲われた際の出来事に言及。ニューヨーク・バッファローの店長が自身の判断で店舗を開放し、避難が必要な人々を受け入れたそうです。
企業文化を通して、Targetおよび従業員が何をすべきかを適切、且つ迅速に判断した好事例と言えます。

おわりに

ここまで、Targetが近年成長を遂げた要因を考察してきました。
企業の不祥事を契機に、他社に先駆けてデジタル投資を加速させたことが功を奏しました。

コロナ蔓延という不測の事態でも、顧客に安心安全な購買環境を提供したことで高い支持を集めたと言えます。

ただし、銘記しなければならないのは、そのデジタル投資と等しく、或いはそれ以上に「人材」、「組織」に対する投資を絶やさないのが肝要ということ。

他の投資と異なり、投下した額と結果が相関しないリスクも孕むなか、CEOが腹を括り、企業文化浸透に邁進し、経営陣および従業員両者にとっての拠り所を明確にする姿には感銘を受けます。

日本でもデジタル活用の好事例が脚光を浴びる場面が多々ありますが、その表層のみを受け取っていないでしょうか。

他に学ぶことは決して悪いことではないですが、
その裏には必ずと言って良いほど、「人材」、「組織」に裏打ちされた企業としての強さがあるはずです。

自社の現状を正しく捉え、中長期で成長し続けるために強化すべき点を見極めることが先決ではないでしょうか。

 

執筆者紹介
取締役 経営推進部部長 小野寺裕貴
慶応義塾大学大学院卒。株式会社みずほ銀行での法人営業、
株式会社インテージでの事業開発・アライアンスを経て、データコムへ入社。
前職時より米国等のリテールトレンドの探求、発信を行っている。
掲載情報
こちらの記事は、販売革新12月号に掲載されています。
※外部サイト(Fujisan.co.jp)に遷移します。本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「販売革新」にて弊社経営推進部の小野寺裕貴が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。 出典:販売革新2023年12月号
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