電子商取引が拡大するタイの小売りレポート

今回は、電子商取引が進むタイの小売業について紹介します。
キャッシュレス決済や売場におけるオンラインの販促が進むタイの小売業は
何を機にオフラインからオンラインへと転換したのか。
未だに現金主義の文化が根強く残る日本の小売業とは何が違うのかといった内容をレポートします。

タイにおける電子商取引成長の背景

タイの小売業の電子商取引が成長している背景には大きく3つの要因があります。
1つ目がコロナ禍におけるオンラインショッピングの需要拡大です。
タイでは新型コロナウイルスの拡大に伴い、ロックダウンが行われた影響で大型商業施設も閉鎖されていました。
コロナ禍以前の2019年、EC市場の市場規模が1,633億バーツだったのに対し、
2020年には2,940億バーツにまで成長しています。

2つ目がスマートフォンの普及率の高さです。
東南アジア地域におけるスマートフォンの普及率を確認すると、
タイは2021年時点で98.8%と近隣諸国と比べても高い水準です。
街中やショッピングモールでは人々がスマートフォンをいじっている姿が印象的ですが、
数値で見てもそのイメージは間違っていないようです。

3つ目がインターネットの利用時間です。
スマートフォンの普及率と併せて、インターネットの利用時間も圧倒的です。
1日の平均利用時間が8.6時間と1日のほぼ1/3をインターネットに費やしています。
2013年時点では1日平均4.36時間だった所が2倍にまで増加しています。

このような社会的背景やスマートフォンを多用する文化などの影響があり、
タイにおける電子商取引は急成長を遂げています。

1日のインターネット使用時間のランキング asean retail 2023資料より参照

オフラインとオンラインを結ぶ購買体験

タイの電子商取引の成長を示すかのように、スーパーマーケットの店舗でも
オフラインとオンラインを結ぶ取り組みが見受けられました。

店の入り口から入って、まず目につくのがLINEの会員登録を促す案内です。
全ての店舗でやっているわけではありませんでしたが、日本と比較すると案内が目に入る回数が多く印象に残りました。

実際にタイ小売り大手Food Hall(Tops)のLINEを友達追加してみました。
最初のメッセージで「1,500円以上の買い物で指定エリア内特別無料配達サービス」の案内が届きます。
そして、そのメッセージの最後の文にはパーソナルショッピングアシスタントの文言と
「返信は5分以内に行われます」と記載がありました。

さらにキーボード部分を見てみるとE-BrochureやStore Locationなどに加えて、ChatやCallのメニューもあります。
Chatのところからは商品の購入までできるようになっており、希望の商品を入力すると商品の写真が送られて来て、
確認後QRもしくは現金、クレジットカード決済で商品の購入が可能となります。

このサービスはメッセージの既読が付くまで間があったり、
商品の写真が売場で撮影されたものに見えたりすることから実際に人が返しているのではないかと思います。

また、LINEの他にも店頭販促でスマホを活用したものも多く見られました。
生鮮食品やグロサリーのパッケージにQRコードが付いており、
それを読み取ると商品紹介のYouTubeに遷移したり、調理方法の動画やおすすめレシピのページに遷移するなど、
購買意欲をそそる取り組みがされていました。

ドラッグストアでは、同様にPOPのQRコードを読み込むとTikTokerの化粧品宣伝動画が流れてきます。
そこから商品を購入することも出来るようになっており、購買確率を上げる良い取り組みではないかと思いました。

このようにタイの小売業ではオフラインの店舗にオンラインの要素を取り込むことで、
リアル店舗に限定されない購買行動が可能になっています。

Food Hall Central WorldのLINEでの注文の様子

生活に浸透するQRコード決済

さらにタイではスーパーマーケットの取り組みだけに留まらず、
国を上げてキャッシュレス決済の普及を促す動きがあります。
ここが日本の現金主義との大きな違いかもしれません。

2015年にタイ政府によって策定された「国家電子決済マスタープラン」がキャッシュレス決済促進に一役買っています。
その取り組みで「Prompt Pay」という電子決済システムによる、QRコードの規格統一化が行われました。
その後、コロナ蔓延による、外出抑制や衛生意識の高まりから現金利用の機会が減少し、
キャッシュレス決済の普及に拍車がかかりました。

タイの街中でちょっとした買い物をしようとしても、
ある程度の規模のチェーンに行かなければ現金が使えないこともありました。

さらに少し都市部から外れた街の屋台やショッピングモールの中に入っている屋台に目を向けても、
柱にQRコードが貼ってあるばかりで、現金さらにはクレジットカードが使えないというような所も多々あり、
キャッシュレス決済の普及率を痛感しました。

私が4年ほど前にバンコクを訪れた際には、ここまでQRコード決済が普及していた印象はなかったので、
コロナ禍を経たこの4年間でのキャッシュレス決済の成長は凄まじいものだと感じました。

 

リアカーにも決済用QRコードが貼ってある様子

終わりに

タイの小売業の電子商取引が進む背景としては、コロナウイルスの蔓延による非接触の考えや
タイ独自のスマホ・インターネット文化、政府によるキャッシュレス決済の後押しが大きいと言えそうです。

一方、日本の小売業ではコロナ禍によりキャッシュレス決済が成長を見せたものの、
国全体での取り組みとはまだ言えません。

その中でもスマホ普及率という点においては日本もタイと差は無いので、
YouTubeやLINEを活用した販促を取り入れる事は可能だと思います。
それらを活用していくことでより有意義な顧客体験を実現できるのではないでしょうか。

 

執筆者プロフィール

経営推進部 マーケティング室 小林祐太

2021年入社。コーポレートサイトのコンテンツ作成を担当。
このブログも締め切りに追われながら必死に書きました。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ちなみに好きなタイ料理はガパオライスです。