酒類の中でもひときわ華やかで、豊富な品揃えの缶チューハイだがアルコール度数高め商品愛飲者の購買パターンは違っていた!?
ミカン、オレンジ、イチゴ、リンゴ、桃、梨、パイン、マンゴー、バナナ、シークワーサーといったテイストが使われている食品と聞いて、どんなものを想像するだろうか。スイーツやアイスクリームなどの菓子類が真っ先に頭に浮かぶ人が多いのではないか。実はこれは、今やすっかり酒類における主要カテゴリーの一つに定着した、缶チューハイ(以降、ハイボールなども含めチューハイ類と表記)に使われている果物の一部である。続々と新商品が誕生しているチューハイ類は、原材料にさまざまな果物が使われ、缶のデザインのカラーバリエーションが実に豊富である。季節に合わせた期間限定商品も多く、酒類でありながら季節感を打ち出しやすいなど、同じく缶入りのビール類に比べても売場が華やかで、酒売場の地味なイメージ(?)を刷新した感すらある。若い世代の支持も高いようだが、品揃えが拡大し、より豊富になるにつれて求められることは、選びやすい棚割りの実現である。
普段の買物を前提とした場合、より選びやすい棚割りにすることで売り手側にとっては、顧客が気付かない、見つけられないことによる機会ロスの削減になり、買い手側にとっては、探す手間が減ることで、買物時間の短縮による利便性向上につながる。双方にメリットがあるわけだが、チューハイ類の場合、ベースとなる酒類と素材の組み合わせ、アルコール度数、糖質ゼロ商品などさまざまな種類が増えた分、何を選んでいいのか、あるいは欲しいタイプの商品がどこにあるのか迷う人も少なくないと思われる。そこでその棚割りについて、より選びやすいものするにはどうすべきかを、データに基づいて考えてみることが今回のテーマである。
フォーカルポイント
チューハイ類とビール類はバラエティシーキング型、他はブランドコミットメント型
冒頭に述べたような果物の種類だけでなく、アルコール度数も他の酒類に比べて多岐にわたっているのがチューハイ類である。多くの店で品揃えされている商品に限れば、顧客は最も低い度数3%から最も高い9%まで、7段階の幅から選択可能である。日本酒やビール、ウイスキーなどはほぼ一定の度数の商品が大半であるのに比べると、その違いは明らかだ。
また糖質やプリン体がゼロなど健康志向に配慮した商品も多いが、ビール類(注❶)の場合、それらの商品はある程度縦割りにコーナー化されている。しかしチューハイ類では、そうでない商品と混在されていることが多い。商品の選択肢が豊富な半面、それが何を基準にコーナー化すべきか絞り切れないことにもつながっているようだ。一人当たりの購買品目数が多いほど選ぶ頻度も多いことになるわけだが、その実態について、まずは明らかにしてみたい。
主要な酒類のカテゴリー別の取扱品目数を図表①に、同一人当たり購買品目数を図表②に示した。共にワインや清酒など一部の種類を特化させた店を除く、一般的な複数のチェーンストアの平均値(年間)である。前者を見る限り、ワインの品揃えが最も多く、逆に最も少ないのが焼酎類で、ビール類、チューハイ類はその中間に位置する品揃えであることがわかる。しかし購買品目数で見た場合は、ビール、チューハイ類が突出して高いことは、後者に示された通りである。商品を、ブランドコミットメント型(BC型)、バラエティシーキング型(VS型)の二つに区分する考え方(注❷)があるが、同じ酒類でも、購買品目数が少ない焼酎、清酒は前者に、ビール、チューハイ類は後者に当てはまると見てもいいのではないか。とりわけチューハイ類の場合、前述したようにビールに比べてテイストの選択肢が豊富で、新商品や四季ごとの限定商品が多いことも、消費者の目先を変え、トライアル購買を誘うことにつながっているようだ。それがビール以上に購買品目数を上げるVS型購買の要因となっていると思われる。
※注❶ビール、発泡酒、新ジャンルビールの3つを総称して、ビール類とした。
※注❷購買における2大行動類型を指す。BC型はいろいろな商品に手を出さず特定の商品(ブランド)をリピートする傾向が高い場合、VS型はさまざまな商品を試す傾向が高い場合。カテゴリーによって大まかにどちらかの傾向がはっきりしている場合が多く、菓子や飲料など購買頻度が高く安価なカテゴリーにVS型が多くみられるようだ。
フォーカルポイント
度数が高めのチューハイ類愛飲者と度数低めの愛飲者との違いは?
A社(アルコール)度数4%商品とB社度数9%商品、それぞれの全購買者と、そのヘビーユーザーグループ(HUグループ、注❸)が購買しているチューハイの点数上位30品目について、その度数別割合を比較したものが図表③である(各右の図表は全売数に占める上位30品目の割合)。A社度数4%商品の全購買者およびそのHUグループでは多岐にわたっていることから、商品を選択する基準は度数よりも、まずはテイストありきと推測される。
一方、B社度数9%商品の全購買者は2割を超え、同じ度数9%の他社商品の割合だけでも4割を占めていることが分かる(図表④)。HUグループでは、その他社商品の割合がさらに高くなっている。B社と他社を合わせると、全購買者で上位のおよそ6割強を、HUグループでは7割の高い割合を、度数9%の商品だけで占めることになる。それ以外も、ほぼ全て高めの度数である7%商品しかない。この実態を見る限り、度数9%商品の愛飲者は、それなりにお酒に強い人で、度数が低い商品ではもの足りないと推測される。
それを裏付けるものは、A社4%、B社9%商品のHUグループにおけるチューハイ以外を加えた、酒類別の一人当たり買上点数が、その全購買者平均の何倍に当たるのかを示した図表⑤だ。双方のどの酒類も、全購買者平均より高い倍率だが、とりわけ洋酒、焼酎、清酒(赤破線枠)と、アルコール度数が高い酒類の倍率が4%(A社)グループより顕著に高くなっていることが分かる。度数が高めのチューハイ類を好む人たちは、度数ありきと考えてよさそうだ。
このような実態を鑑みて、売場の棚割りを決めるとしたら、特に売場スペースに余裕がない店を除き、まず7%以上のチューハイ類をアルコール度数高めのチューハイ類としてコーナー化すれば分かりやすい売場となるはずだ。それ以外の商品はアルコールベースの種類やテイスト、度数、無糖など、タイプ別に30のグループに分類し、その年代別割合(点数)を示した図表⑥を参考にしてほしい(60代未満をキーに昇順に記載)。これを見れば冒頭に紹介したような、果実類をベースにした商品が中心のチューハイ類におけるテイストの豊富さを、改めて認識するのではないか。
図表⑦に見る通り、酒類の中でチューハイ類だけが突出してシニア以外の世代の割合が高いのも、果実類テイストの商品のどれもがそうであり、その品揃えが多いためだ。一方、シニア層の割合が高めの商品もある。その上位4商品(図表⑥グラフ下段からの4品目)は、いずれもハイボール系の商品。中でも唯一シニアの割合が5割を超えているのも、焼酎をベースにしたハイボールの商品だ。年代別の割合が異なる商品は、購買層が異なる商品でもあるため、同様の商品でかたまりが作れるのであれば、コーナー化する方が分かりやすいはずだ。前述した度数の事例同様に、購買特性が類似しているグループが存在する場合にも当てはめるべきだろう。
図表⑧は、糖質ゼロ(注❹)のチューハイ類の購買実績がある者が、ビール系飲料においても糖質ゼロの商品を購買しているか否かを調査したもの。三つの円グラフの中心円(桃色部分)が、ビール系飲料全購買者の、糖質ゼロ商品の割合(点数)を示したものだ。この3割に満たない実績が、糖質ゼロ商品の平均値ということになる。それに対して、真ん中の円(水色部分)は、糖質ゼロのチューハイ類全購買者の実績を、外円(青色部分)がそのHUグループの実績を示している。前者でおよそ4割、後者で5割近く平均値に比べて明らかに高い割合である。
年代別には、40代以下の若い世代の割合が両者共に高く、とりわけ後者は40代以下の全ての世代で5割を超えていることがわかる(図表⑨)。ビール類、チューハイ類問わず、チューハイ類の支持が高い若い世代中心に、糖質を気にしながら飲んでいる人は多いとみてしかるべき実態と言えそうだ。ビール系飲料の場合、大半の店が糖質ゼロの商品をコーナー化しているが、チューハイ類の糖質ゼロ商品は、それが分かりにくい商品も多く、むしろビール系飲料以上にコーナー化が必要とも言える。特に売場スペースが広い店の場合は、そうした方が選びやすく、買いやすい売場になるのではないか。
※注❸当連載では、購買者を購買金額上位から均等数の10グループに分けたときの最上位グループとしている。
※注❹糖質70%オフなどの糖質を一部カットした商品も含む。
チャレンジポイント
顧客が商品を選択する際の共通キーに基づいて該当商品をコーナー化しよう
以上述べてきたチューハイ類に関するデータを基にした棚割りのポイントをまとめると、次のようなコーナー化(区分け)が望ましいと思われる。まずアルコール度数7%以上の商品を度数強めの商品として訴求。度数7%未満の商品は、果実テイストとハイボール系、ドライタイプをそれぞれ分けてコーナー化する。糖質ゼロ商品もコーナー化した方が分かりやすいが、その作業は簡単ではないため、ワインや日本酒などの売場で、その愛飲者が選択の際の参考とする度数やテイスト(甘・辛)などを、プライスカード横に個別表示するようなやり方で対応することも可能だ(糖質の他、度数、ベースとなる酒類などを表示)。
コーナー化をすべきとする判断は、データを基に、購買特性が同じような商品、例えば同じ年代層、同じ機能性、同じテイスト、同じ規格(容量、販売形態など)、同じ素材など、商品を選択する際の共通のキーが購買者にあると推測される場合(しかもその規模がある程度大きい場合)である。そうすることで、機会ロスが減り、買上点数アップにつながる。地道な努力だが、スーパーマーケットはそんなことの積み上げが大事だと考える。一度自店のデータを検証し、それを基に棚割りの見直しを検討してみてはいかがだろうか。ちなみに酒類ではないが、該当する商品が少ない中で、冷蔵多段ケースなどで無理に縦割りでコーナー化している売場を見ることがあるが、幅の狭い縦割りは品揃えが乏しい印象を与えてしまう。その場合、上段または下段から2段~3段までを使い、ある程度横に広くフェースを取るコーナー化の方が、品揃えが豊富に見えることを付記しておきたい。
データコラム
チューハイにうんちくは似合わない?
風流を好む人を指す好事家(こうずか)という言葉は、現代人にはあまりなじみがないと思われる。この言葉は、普通の人があまり興味を示さない物事に関心を寄せる人に対しても使われるが、今で言う「オタク」に近い意味合いだろうか。年中、特定の食品を食べ続けたり、ある物事にはまり、それに関する本を出版したり、好きが高じてそれだけで生計を立てる人までいる。そういった好事家?オタク?にスポットを当てるテレビ番組も人気のようだ。もしこのタイプの人が酒類にはまるとしたら、どのジャンルが一番ふさわしいのだろう。恐らく今回取り上げたチューハイを置いて他にないのではないか。
例えばワインである。この場合はオタクというより、ソムリエという専門職が既にある。洋酒ならバーテンダーのプロがいるし、清酒なら利き酒師がいる。その道のプロがちゃんといるわけである。そんな専門家でなくとも、うんちくを語る人がいくらでもいるジャンルなのだ。酒好きの作家開高健氏や文芸評論家小林秀雄氏は、いい文化のある国にはいい酒があると語っていた。うんちくを語るのは、文化を語るに近い話になり、正座して耳を傾けねばならないことになりそうだ。それが窮屈だとしたら、チューハイはまさにもってこいのジャンルである。チューハイを酌み交わす場なら、会社の上役から説教めいた話を聞くこともなさそうだ。チューハイが、ノミニ(飲みに)ケーションに関心がない若い世代に人気があることも頷ける。アルコール度数はうんちくの対象となる酒類よりは低めで、甘く飲みやすいものが多いチューハイだが、専門家によればアルコールも甘い糖類も、共に肝臓で処理されるため、同時に多くを摂取すれば、度数が強い酒同様に肝臓に負担がかかるそうである。こればかりは甘い話ではなさそうだ。
本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「食品商業」にて弊社分析推進室の清原和明が連載しているものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。
出典:食品商業2023年8月号「200万人の顧客データが語る「こうすればもっと売れる!」第28回」
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