新しいカテゴリーの創造、これは小売りに課せられた使命のひとつだ
メーカーは新商品を開発し続けることがその使命のひとつだ。小売りはどうか。小売りの使命のひとつは、新しいカテゴリーを創造し続けることではないだろうか。何故なら小売各社における棚割は、その小売りの商売の基本コンセプトの表現であり、それはひとつのメーカーだけでは到底作れないカテゴリーの組み合わせで出来上がっているからだ(現実には、メーカー側からの提案に基く部分が多いにしても)。そこで今回は、新カテゴリー創造への取り組みにスポットをあて、顧客データを使ってその検証を試みた事例のいくつかをご紹介したい。
その前に新カテゴリーについてまず整理してみよう。
筆者は、新カテゴリーの創造は二つのパターンに分けることが出来ると考えている。ひとつは、カテゴリーそのものが今までにないものである。例えばディップソースや手作りの和菓子の棚割等がこれに当たる。もうひとつは既存カテゴリーではあるが、商品の組み合わせや構成、隣接するカテゴリーの配置等が、今までにない新しい発想により再構築されたものである。まずは後者に着目することから始めたい。
食のシーンに基き、その関連商品を集約展開、再配置による新カテゴリー
図表①は、そのおおまかなゴンドラ配置である。注目したいのは、ゴンドラ5本を使ったドレッシングの棚割である。
上段から2段目まではドレッシングではなく、その関連商品を並べているのだ。海草サラダやサラダスパ、クルトンやビッツ等のトッピング商材や、野菜以外でのサラダ素材等が、5本の上段全てを使って配置されている。この5連のドレッシングのゴンドラに隣接するのは、コーンを中心としたホタテ、カニなどの缶詰類である。サラダクラブがその上段に並んでいる。ツナを中心にしたピクルスやビーンズなどの缶詰類がその横に続き、その上段には、瓶のザワークラウト、ピクルス類が並ぶ。ちなみにここにある缶詰は、缶詰のコーナーには陳列されていない(この店では、基本的に缶詰は食のシーン別に売り場に分散配置されている)。更に缶詰の横には、マヨネーズのゴンドラが隣接する。新カテゴリーであるディップソースは、その横のゴンドラ上段に集約され、その下段には、タルタルソースが並んでいる。
もうおわかりのように、中通路の片面10本のゴンドラすべてが、サラダを食べるという食のシーンに基き、その関連商材を集約展開した売り場になっているのである。新しい発想で既存カテゴリーを再配置した格好の事例と言えそうだ。
ここで図表②のコーン缶とサラダクラブ、それぞれをキーにした同時購買商品のリストを見ていただきたい。ある小売りチェーンの事例である。赤色で示された部分の商品は、サラダとの関連が薄い商品であり、それは著しく少ない。
これを見る限り、どちらの商品をキーにした場合でも、ほとんどが集約展開で並ぶサラダ関連商品で占められていることがわかる。このデータは、当然先述した店舗のような売り場のデータではないが、缶詰など、売場の隣接要因で同時購買として出てきた商品もあるだろう。しかしそれが集約展開を否定することにはならない。隣接していても同時購買の相関が低ければ、ここまでデータが関連商品で埋め尽くされることはないからだ。
ドレッシングよりもマヨネーズのヘビーユーザーの方がディップソースに関心がある
ここにもうひとつ興味深いデータがあるので、それを紹介しよう。
図表③である。マヨネーズのヘビーユーザーと、ドレシングのヘビーユーザーのどちらが多く新カテゴリーのディップソースを購買したかを調べたデータである。
このように食のシーンで大きく売り場を括る手法は、最近よく目にするものである。例えばごはんを食べるという食のシーンから、図表④のように、ごはんを連想するカテゴリーを集約した売り場が作られている。エンドには、国分が2013年に発売した缶詰の「入れ炊く」シリーズが配置されていた。このような食のシーンの括りの中で、新しい切り口の新商品を展開することは、メーカー、小売り双方にとって、好ましいことである。単に缶詰売り場に並べただけでは、限られた顧客にしか認知されないが、メーカーの開発意図と、売り方がマッチすれば、意図した顧客へのアプローチにつながり、その商品の真価が問えるからである。
金額リピート率が突出して高い場合には、何か理由がある
それを読み解くことがニーズを掴むことでもある
商品を育てることは小売りの役目でもあり、その原動力となるものがカテゴリーの創造なのである。
図表⑤を見ていただきたい。米の品群における一般的なリピート率(黒の折れ線グラフ)の降順に商品が並んでいる。金額リピート率は赤の折れ線で示されている。棒グラフは売数である。
今までになかった規格の商品を集約すれば、それもカテゴリーの再構築のひとつとして捉えることが出来るだろう。CVSでは、セブンイレブンだけが3合極小容量を取り扱っているが、この手の商品におけるニーズの有無には、前述の国分の「入れ炊く」同様、小売り側が、開発の意図を理解し、それに見合う売り場をつくらない限り正確な判断は下せまい。しかし顧客データを見る習慣があれば、今は日陰の身ながら、スポットをあてさえすれば、スターとして輝く「逸材」を早期に発見する可能性は高くなる。
カレーソースは、新カテゴリー構築への2回目の挑戦?
最後に、もうひとつ事例を挙げてみたい。カレーソースである。
実は、このカレーのジャンルにおける新しいタイプの商品は、すでに10年以上前にハウス食品が、グランカレーソースというネーミングで世に送り出していたものである。しかしそれは、いつの間にかスーパーの棚から消えてしまっていた。何故だろうか。その要因は、開発したメーカーではなく、小売り側にあったのではないかと筆者は考えている。カレーソースは、ルーとレトルトの中間に位置する新しいカテゴリーに属する商品である。しかし当時の小売り側の販売状況を見る限り、その認識は希薄だったように思われる。何の説明、訴求もないままに、ただ新商品としてカレーの棚の中に組み込んでしまったスーパーが大半だったからである。もちろん、メーカーによるTVCM、それなりの販促活動はあったのだろうが、小売り側の反応が今ひとつで、その反応の鈍さが、そのまま消費者の反応の鈍さにつながってしまったとしか思えない。消費者が、新しい切り口の商品としての既存のルーとの違いを認知する間もなく、カレーの棚からカットされていったのではないか。そう推測していた。
そして2013年8月に、再びカレーソースがハウス食品から発売された(同月にグリコからもフレークタイプだが、同様のコンセプトの商品が発売された)。カレーソースは、レトルトよりも手作り感があり、ルーを使って作るよりも簡便なため、いわばいいとこ取りの商品と言える。このタイプの商品は、ハウス食品以外にもいくつか販売されていた。ただカテゴリーが構築されるには、アソート幅があまりにも少なすぎた。しかしハウス食品を筆頭に、SB食品などの大手食品メーカーが新商品を投入し、小売り側の開発意図に沿った売り場展開があれば、新カテゴリーとして定着する可能性が出てくる。
ここに面白いデータがあるので紹介してみたい。図表⑥である。異なるセグメントの比較分析である。ひとつのセグメントは、ハウスのカリーソースのリピーターグループ(複数回購買者)である。もうひとつのセグメントは、それを全く購買していない未購買のグループである。ちなみに後者は、他店での買い回りの可能性を少しでも低く見積もるため、食品の購買上位の顧客のみで絞り込んでいる。この二つのセグメントのカレールーの購買実態を比較したものが図表⑥なのである。特定の異なる購買特性をもつこの二つのセグメントを比較することによって、もし顕著な差異があれば、その要因を推測する必要がある。
冒頭の表題でも表現した新カテゴリーの創造は、最終の消費者に最も近いところに位置する小売りにのみ与えられた使命である。それを、小売り側が正しく認識していれば、まだまだ小売りは進化するに違いない。ケアフード、フレーバーソルト、自然解凍の弁当素材など、ここ最近の新カテゴリー創造への取り組みは少なくない。今回紹介したような、顧客データを使ったリピート分析やセグメント比較分析等が、新カテゴリーの開発や既存カテゴリー再構築への取り組みの一助となることを、そして顧客データのもつ重要性への理解が、今後更に深まることを期待したい。
本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「食品商業」にて弊社分析推進室の清原和明が連載していた内容を一部編集したものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。
出典:食品商業2014年6月号「商売上手を科学する~新しいカテゴリーの創造、これは小売りに課せられた使命のひとつだ~」