シニア層への商売上手を科学する

シニア層の分析に活用する年代別特性5.1分類とは

小売りに関する記事の中で、シニアと言う言葉に遭遇しないことがないほどその注目度は依然高い。しかしそれに相応しい対応が、小売りの側できちんとなされているのだろうか。そもそもシニアの嗜好やニーズを、小売り側では何を持って把握しているのか。そこで今回は、「シニア層への商売上手を科学する」と題して、顧客データを使って、シニアの嗜好、特性を読み解くことからシニアのニーズを捉えた事例を説明してみたい。

今回の分析には、5.1分類と名付けた分析手法を用いているが、最初にその手法について簡単に説明しておきたい。
図表の①は、稼動会員(※1)の年代別構成比と、ある商品を購買した会員の年代別構成比の比較をグラフ化したものである。

図①年代別特性5.1分類の5つの型図表①年代別特性5.1分類の5つの型

では何故5つなのか。その理由のひとつは、振り分ける型が多くなるほど解析に時間を要し、且つ多くの打ち手が必要となることから、絞り込みが必須であったということ。もうひとつの理由は、20万以上に及ぶ単品を全て調査した結果、どんな商品でも、ほぼこの5つの型(売れ数が極端に小さいものは除く)に振り分けられることがわかったからである。
では何故5分類ではなくて5.1分類なのか。それは、それぞれの型のより顕著なものが把握出来るように、突出型(例えばシニア支持型の顕著な商品は、突出シニア支持型)として更に切り分けたためである。それを0.1と数えて年代別特性5.1分類と名付けたものである。

ちなみにこの名称は、オーディオの5.1チャンネル(※2)を模してネーミングしたものであり、今回この5つある年代別特性の型の中から、シニア支持型にスポットを当ててみよう。

※1 稼動会員:ポイントカードを使用している顧客(購買のないスリープ会員を除く会員)
※2 5.1チャンネル:主に映画等で使用される5つのスピーカーと1つのサブウーファーからなる6つのスピーカーに対応する音声の方式のことを指し、サブウーファーが重低音のみ再生するところから、それを0.1と数えて、全体で5.1チャンネルと呼ばれる。

シニアはラベンダーの香りに惹かれる?

芳香剤の5.1分類を見てみよう。図表②がそれである。シニア支持型にのみ集中して登場し、他の型にはほとんど登場してこない商品が、ラベンダーの香りの商品なのである。

図表②トイレ芳香剤のシニア支持型商品 売数上位15品目図表②トイレ芳香剤のシニア支持型商品 売数上位15品目

何故ラベンダーなのか。その理由は推測するしかないが(数ある香りの種類の中で、過去から最もポピュラーな香りということでシニアに一番親しみがある?) 、例えば小豆を使った菓子パンや氷菓、ノンオイルタイプのドレッシング、あるいは玄米茶など、シニア支持型に集中して登場する特定の嗜好や特性を持った商品は他にもたくさん存在する。

このようにある型にのみ偏って登場する商品に共通する特徴がわかれば、何故支持されているのか容易に推測できる。それを使ってまずはPB商品に関する事例から見てみよう。

PB商品とそのベンチマークNB商品は真逆のグラフになる?

図表③は、PB商品(ここでのPB商品はあくまで価格ブランドとしてのPB商品を指す)とそのベンチマークと推測されるその分野のトップブランドであるNB商品の、5.1分類の型を比較したものである。グラフを見て一目瞭然であるが、ここに事例としてあげた3つの商品の全てが、互いに真逆の曲線を描いている。

図 ③  5.1分類によるNB、PB比較グラフ(左NB:右PB)図表③5.1分類によるNB、PB比較グラフ(左NB:右PB)

もともとベンチマークされるNB商品は、ブランドとしての信頼性が高い上に長寿なものが多く、高齢になるほど愛着度合が増す商品だということから、シニア支持型になると考えられる。一方PB商品における真逆の曲線は、似たような商品であればブランドにこだわらず、価格がより安い方を選択する新たな購買層、つまり若い層を取り込んでいることの証しと言えそうだ。このことから、互いに重なり合う曲線はブランドの移行は起こるものの、売数の増にはつながらないことを示唆するものではないか。つまり真逆になる場合こそ小売りにとってのプラス要素と成り得るのであり、PBとしての評価は、正にその場合において○だと判断すべきことがわかってくる。

レンジでチンして食べる食品はほとんどがヤング支持型
その中で唯一そうでないものとは?

図表④は、レンジ対応商品を5.1分類で示した折れ線グラフである。ここでは上位品目を掲載しているが、大半の商品が左肩上がりの曲線を示しているのに対して、ごく一部に真逆の右肩上がりの曲線を示しているものがある。それは何か。答えは、パックごはんである。

図表④レンジ用グロサリー食品5.1分類(売数上位品目)図表④レンジ用グロサリー食品5.1分類(売数上位30品目)

一般的には、レンジ対応商品は簡便食品として若い人中心に支持される傾向が強いイメージにあるが、ほとんどの商品がヤング支持型(左肩上がりの曲線)であることがそれを裏付けている。その中にあって、パックごはんだけがシニア支持型ということは何を意味しているのだろうか。ひとり分のごはんを毎回炊くのは億劫だ、でもパンよりごはんが好きだ、という高齢者が多く存在することは想像に難くない。ひとり暮らし、あるいは量を必要としない高齢者に支持されていることは明らかだろう。

そんなシニアを意識したのか、数年前にはほとんど見ることのなかった120~30g程度の軽く一膳分のパックごはんが、最近どこのスーパーでも取り扱いが増えてきた。そんな中で、PB商品として小容量のパックごはんを開発したのが、某関東スーパー2社である。PBで先陣を切ったのはダイエーだったが、ある理由で先の2社に遅れをとった。その理由とは、バラ売りをしなかったということである。120~130gの4パックなら、それだけで500g近くになり、高齢者には持ち帰る負担が大きいだけでなく、毎日散歩がてらに来店する高齢者に対しては、必要のないまとめ買いを強要することにもなる。シニアの目線で考えた時、最小単位で買えることがいかに大事なことか、食品スーパーに携わる人が決して忘れてはならないことだと思う。そう言った意味で、本来顧客に最も近い小売りこそ最初に気付かなければならないシニアのニーズに対して、いまだNBが作らない小容量パックごはんのバラ売りをPBで開発したということは、本来のPBのあるべき姿として大いに評価すべきことだと思うのだがいかがだろうか。

惣菜の白ごはん、何故同じ小容量(120~130g程度)を作らないのか?

パックごはんで、軽く一膳に値する小容量の商品が増えてきたことは今述べた通りである。であれば、同じ白ごはんを売っている惣菜売り場でも同様の商品があっていいはずだが、何故かそれはほとんど見かけない。150g前後の容量の商品までは目にするものの、それ以下の容量で白ごはんを販売している店は極めて少ない。何故作らないのか?そう思って売り場を見ていたら、前述の某関東スーパーの新店の惣菜売り場で、120g前後の正に軽く一膳分の容量の白ごはんを見つけた。それは通常の白ごはんの容器よりも小さめの容器に、少量と書かれたシールを貼って陳列されていた。さすがいち早く小容量のパックごはんを自社のPBで開発しただけあり、その目線はシニアのニーズを的確に捉えていると言えるだろう。

 

本記事は、スーパーマーケット専門情報誌「食品商業」にて弊社分析推進室の清原和明が連載していた内容を一部編集したものであり、株式会社アール・アイ・シー社の承認の上掲載しています。
出典:食品商業2014年3月号「商売上手を科学する~シニア層への商売上手を科学する~」